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核燃料プールささめく寒昴 髙市 宏
東日本大震災から十四年になろうとしている。震災発生当時は被災地の方ばかりでなく、いろいろな方が様々の受け止めかたで震災を詠まれた。しかし掲句は、十四年経た今でも、消えることのない爪あとから眼をそらさない。今の原発問題に、確たる眼を向けている。掲句の「ささめく」にゾクッとした。「さざめく」ではなく、あくまでも「ささめく」なのである。核燃料が声を潜めてささめいている。少しの外界からの刺激が加われば大事に至るのだ。忘れているわけではないが、こんな恐ろしい世界を横目に私たちは営々と暮らしている。これからも核燃料はささめき続けるだろう。
同じ作者の句でもう一句
/雪国や仏のための部屋があり 髙市 宏/
この句の中に母の文字は見当たらないが、何故か反射的に寺山修司の母を詠んだ句の世界を思った。不思議な感触の句。
(選評:金子 秀子)
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