11月18日(土)当日は小春日和となり、講演会は予定通り午後2時に牡丹会館で始まった。受講者は制限人数通り60名。講師は中村草田男の直弟子で「万緑」の後継誌「森の座」創刊代表の横澤放川先生。先生は俳人協会評議員で、超結社同人誌「件」創刊同人、「TOTA兜太」編集委員、日本経済新聞俳壇選者などをつとめる。本職は東京カトリック神学院教授。今回の演題は「歩くということ」。
挨拶の後、講演に入る前に話されたのは、月刊誌「俳句」の9月号の記事で、3月に逝去された俳人の黒田杏子さんの名誉を傷つけたとして、遺族と長谷川櫂氏など俳人9名が、発行元の角川文化振興財団と同誌編集長、発売元のKADOKAWAに抗議・申入書を出した俳壇内での異例の事件のことだった。先生も抗議した9名の俳人のうちの一人であり、自分の文学への姿勢をまず知ってもらう意味合いからと、講演冒頭の「つかみ」として聴講者の興味を引く話題を持ってきたものであった。
講演に入ると、先生の海外生活の経験などのエピソードや専門の哲学など豊富な知識が様々に散りばめられ、幅広く深い内容が流れるように話されるので、聞きほれて聞き逃した点もかなりあるのだが、内容は大きく分けると左記の4点になるであろう。
① 虚子と碧梧桐の対立の元となったホトトギスの季題趣味と碧梧桐の無中心論、そしてその渦中で生まれた大須賀乙字の季感象徴論の持つ新しさと俳句史内での乙字の再評価の必要性。
② 松尾芭蕉の俳句の革新性について、それも歩くことで直覚できたのではないか?
③ 中村草田男の季題別全句集の編纂の難しさ。特に吟行や嘱目の句は季節に捉われない自由な点
④ 歩くということ、出会うことの大切さ。
先生は、今は足が少し不自由ということで、長くは歩けないが庭に出るだけでも発見はあるものだとおっしゃる。この日も当初は椅子に座って話す予定だったが、顔が見えないと話が分かりにくいだろうと、90分間ずっと立ち続けて講演された。先生のご厚意に深く感謝申し上げたい。
つづく4時30分からの牡丹焚火では、須賀川市長、江藤同人会長、ゲストの横澤放川講師らによって火入れ式が行われた。来場者は150名ほどで、桔槹関係者が約半数を占めた。
夕方からは思ったより風が強く、時折炎がうねるように舞い上がったが、牡丹焚火は順調に進行した。観覧者は焔の朱色からしだいに燠となって紫に変わる色の変化と香り、しみじみとした美しさを堪能した。